野崎六助著作リストつづき

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28 給食ファクトリー  NHK出版   1998.8                                     

 小説八作目。ジャンルとしては社会派ミステリだろう。

 時間をかけて取材し、編集者とも相談を重ねて進行した。わたしとしては珍しく正攻法で書いた作品である。

 けれども学校給食にたいする関心の低さをあらためて痛感させられた。


29 北米探偵小説論 北米増補決定版  インスクリプト  1998.10          

 7の増補決定版。旧著はほどなく店頭から消えたが、再刊の話もいくつかはあった。そのいずれもが縮小方向でなされ、わたしには受け入れるに忍びないものだった。増補の方向を出してくれた版元に、一も二もなく話をゆだねることにした。

 最も苦しかったのは引用出典の再調査だった。旧著は頁数を節約するために、出典の明記を省略して済ました。そのための下書きメモも残っていないものがあった。執筆が長い年月にわたって断続的になされていたので、その間の削除とか加筆とかが煩雑で、下書きに直接引用したものなどは、書物のタイトルすら書かれていないケースもあった。それを復元していくことは、まるでもういちど本文を書き直すほどの労力を強いたのである。

  目次 プロローグ パサージュとしての探偵小説論   本書の構成   灰色のノオト  ベンヤミンのパサージュ
              銀閣寺の大学生    同時代のアメリカ

     序章 鯨の腹の中に  カフカの探偵小説    征服者ポオ   総和と消去について
     一章 文芸復興・一九一三年
     二章 戦争は国家の健康法である
     三章 世界一周  バイブル・ベルトの間抜けたち   ある青年の入門   それ行け黄色いホームズ
                 一九二六年のツァラツストラ    オールド・マン
     四章 時と砦について  カンパニー・タウンの殺戮     スタイヴィサント・クラブで昼食を
                 ファイロ・ヴァンスの料理帳      ニューヨーク・三十年代・幼年期
                 メルヴィルの墓の下に     時とは打倒されねばならぬ一つの専制である
                 悲劇の記号学     やせっぽちのバラード     ニューディールの谷間で
                 天空のオベリストたち    エラリー君成年期に達す   フォークナーの光
     五章 合州国における戦争  喪われた十年   合衆国共産党の苦衷  大さわぎ探偵小説
                 クイーン氏の発見   大いなる眠り   山にはジャップはいない
                 永久革命者の悲哀    ブラック・ボーイ・カントリー
     六章 悲劇の社会学  ライツヴィルに還る   冷戦パズル  長い長いお別れ  鉄のカーテンを死守せよ
                バーバリの岸辺か火星の土の上か    コズミック・ブルースを唄え
                縞模様の五十年代      抗議と逆抗議

     七章 わが愛しき妻よわが鳩よ  ホワイト・ニグロの来歴について  二つのマクドナルド・スクール
                  六十年代の家系   P・K・ディックの無数のスティグマ
                ブラック・ニグロの出立   ヴァニシング・アメリカン還る  ワイルドバンチ
     八章 エレクトリック・レディランドを見たか    流れよわが涙とP.K.D.はいった
                me-ハードボイルドの研究   白人種馬男(ホワイト・マッチョ)の考古学(アルケオロジー)
                南アフリカ人の血    黄色植民地人の憤怒    ウォンボー・ボーイズ
     九章 アメリカの闇の奥で  ボーン・イン・ザ・USA   夜明け前のレスキュー
               世界のための警察国家(エンターテイナー)    ギミー・シェルター   ヴァリス・アゲイン
     エピローグ 湾岸から遠く離れて
     はしり書き的うしろ書き あるいは如何にして野崎六助氏は北米探偵小説論を書いたか
     北米探偵小説論執筆覚書
     年表    人名索引    書名索引
     

装丁 間村俊一   カバー写真 港千尋


30 京極夏彦読本 超絶ミステリの世界 情報センター出版局  装丁鈴木成一    1998.12


京極作品およびそのブームについては、折にふれ、書いたり書かされたりしてきた。ついに一本、集中して仕上げることになった。類書のない作家論の本としては『リュウズ・ウイルス』につづく。現代の不安の根に少しでも迫るか。

  目次 序章 京極夏彦は妖怪である
     一章 館の崩壊 『姑獲鳥の夏』
     二章 匣の建築 『魍魎の匣』
     三章 夢の交易 『狂骨の夢』
     四章 檻の破砕 『鉄鼠の檻』
     五章 蜘蛛の巣の完結 『絡新婦の理』
     六章 嗤う京極・お岩の逆襲 『嗤う伊右衛門』
     七章 闘争の予兆 『塗仏の宴 宴の仕度・宴の始末』
     八章 ふたたび館の脱構築 文庫版『姑獲鳥の夏』

 本文妖怪画 水木しげる


31 宮部みゆきの謎  情報センター出版局   1999.6    装丁鈴木成一

 現代ミステリ作家案内シリーズの二冊目。見開き二ページをコラム一個の一単位として、百コラムで一冊の体裁。見た目は凝っているが、つくるのは案外かんたんなのだ。『空中ブランコに乗る子供たち』の場合は矢印が錯綜していたが、本書では双方向に関連が結ばれるのみだ。

 発売日から逆算して、締め切りが設定された。本のパッケージのほうも同時進行だった。雑誌なら当たり前のスケジュールとはいえ、自分一人の著作でこれをやるのは、けっこう緊張させられた。

 初刷りに、いくつかミスプリントが発見され焦った。二刷りでは訂正されたが、ミスに怒った読者のほうが多かったか。

  目次 1 宮部みゆきワールドの攻略法
      2 ヒロイン&ヒーローの徹底分析
      3 ジャンル別・全作品の楽しみ方
      4 語り口のテクニックを分解する
      5 「超能力ミステリ」の世界
      6 宮部流「人間ドラマ」の真実
      宮部みゆき著作リスト


32  ミステリの書き方12講    青弓社    1999.9                 

 セミナー講座の開始から企画がまいこんだ本。記述は現在進行形をとり、四月期に始まった半年のクラスが終わる前に本はできあがった。十月期からのクラスでは教科書に使うことにした。その意味で、耐久度のある本だ。

 類書はいくらでもあるが、やはり異色の一冊か。

  目次 第一講 見る前に跳べ
     基礎演習編 第二講 読み書きを鍛える
           第三講 題材の取り方
           第四講 取材をいかにこなすか
           第五講 すべてに先立って、ミステリとは何か
     実践突入編 第六講 ディテールの箱をつくれ
           第七講 ファースト・シーンを描いてみる
           第八講 人物をデッサンする、人物配置をつくる、会話をさせる
           第九講 ナレーションの問題
           第十講 構成とプロット、および会話
           第十一講 トリックの話--おまけ
     第十二講 跳んでから見ろ



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33  煉獄回廊   新潮社   1999.9   カバー装画ピーテル・ブリューゲル「絞首台の上のカササギ」部分                               

 小説九作目。いちおうはサイコ・サスペンスと銘打たれている。リチャード・ニーリーの『殺人症候群』を意識して書いた点でいえば、あてはまるだろう。一方、ル・カレの『パーフェクト・スパイ』との類似を指摘した人もいた。けれどもこの小説の人物は、人間としてもスパイとしてもアンパーフェクトな男だ。名づけようもないというところだが、多くの部分が「自伝」的であり、ほとんどの人物にモデルがいる。

 今のところわたしが書きえた最高の作品である。

 この先へ進まねばならないのだ。


きみ訪れる夜

e-novels 販売作品 販売価格は130円
 詳細はe-novelsサイトに。
 初出は『ミステリマガジン』1997.3

 完璧に何年か前の、作者の私小説的現在を映しているし、またそのつもりで書かれた作品。
 ――というのは嘘。
 いや、案外ほんとうかも……。
 答えは作者のわたしにもわからない。

 読者の判断を仰ぎたい。とかなんとか。


奴らは絞首刑の絵葉書を売る

e-novels 販売作品 販売価格は280円
 オリジナル作品

 全十話完結の連作、第一弾。とはいえ、「ラヴ・マイナス・ゼロ/ノー・リミット」という基本ラインと二話分のストーリーしかまだ決まっていない。テーマは何かといえば、アイデンティティの模索ということになる。
 人工眼球からバレットが飛び出す仕掛けは、アルバート・ピュンの『ネメシス』に前例があったんだと思う。
 『前世ハンター』の次の世界がここに顔を出している。ともあれ、これが新しいスタートラインだ。



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薔薇の残り香を嗅げ

e-novels 八月七日販売 
販売価格は220円
 オリジナル作品

 第一話のずっと過去にさかのぼる話。ここでは、近未来ものの定番である「破滅」の実相が明らかにされる。核戦争でもなく、原発の事故でもなく、核燃料輸送トラックの交通事故による「クラッシュ」だ。首都圏の中枢部分はこれによって消滅するだろう。
 この連作では、中枢を喪ってしまった外の世界の荒廃を描いていくが、それとは別個に「内」の世界の物語も同時に構想している。連作では<ゾーン>と呼ばれる領域は完全に死に絶えたわけではない、という設定である。
 しかしまあ、ここで採用しているハードボイルド・タッチのほうが身についていることは間違いない。


35 前世ハンター  新潮社 2001.7.20刊 
カバー装画 茂利勝彦 装幀 新潮社装幀室
310P 19cm 1700円 
ISBN4-10-448001-0


36  これがミステリガイドだ 1988-2000 東京創元社

創元キーライブラリ(文庫版) 690ページ 

二十世紀末ミステリ時評 

十三年にわたる書評・コラムの集大成

国内新本格ミステリ、海外冒険小説、サスペンス、ホラー、SFなどなど。作品の書評から年間ベスト、テーマ別コラム、話題作家の紹介など、十三年にわたり書き継がれた時評を一冊に。

二十世紀末ミステリ・シーンを俯瞰できる充実のガイド