ボルタンスキーって誰だ

 『クリスチャン・ボルタンスキー 死者のモニュメント』 湯沢英彦(水声社)を読む。
 70年前後に観たアングラ映画・個人映画のなかで最も衝撃を受けたのが、この人の短編『咳をする男』だった。ガンガンに底冷えする京大西部講堂で観た、わずか四分足らずのフィルムを一生忘れられない。

 『咳をする男』
 『ボルタンスキーを探して』
 ビデオ『ボルタンスキーを探して』
 ビデオ『C・ボルタンスキーについて彼らが思い出すこと』
 


クリスチャン・ボルタンスキー―死者のモニュメント
 以後、時おり活動を目にするが、全体像がつかめずに困惑させられるばかり。いったいどういう表現者なのか。
 死のモニュメントを展示することによってホロコーストを告発した――というのは、あまりに恣意的な解釈にすぎるし、おまけに彼の一作品に偏した評価にすぎない。
 無意味な断片のコレクターというのもまた、一面のみを拡大する見解なのだろう。
 というわけでボルタンスキーについて書かれた初めてのまとまった本を見逃すわけにはいかなかった。読んだ。まあ、これで一つ落ち着いたような気分だが、一方で、了解してしまってはつまらん、というおかしな感情も芽生える。