『夕焼け探偵帖』で探偵小説マニアをうならせた野崎六助の二作目『殺人パラドックス』が刊行された。前作はレトロ風味の作品だったが、今回は一転してスラップスティック調のコメディ・ミステリ。芸風の広さはなかなかであって、一般向きという点ではこちらかもしれない。まず登場人物一覧はウェストレイク『踊る黄金像』を思わせるもので、「どちらが名探偵?」となっているのが主人公の弁当屋夫婦で夫がトド、妻がオクサン。六人の子供が並んだあと「第一の被害者」「犯人かもしれない」「こいつは怪しい」などのコメント入りで人物名が並ぶ。これだけでも楽しめるが、事件はクィーン『チャイナ・オレンジの秘密』ばりの殺人。女性トイレに逆立ち状態、着衣裏返しで女性下着をつけた男の死体が密室で発見される。謎解きもなるほどと思わせる周到なもので、弁当屋夫婦の庶民的キャラクターにも共感が持てる。
結城信孝 ミステリマガジン1994.10