これらのガイド本と、野崎六助の『これがミステリガイドだ!』(毎日新聞社)と『世紀末ミステリ完全攻略』(ビレッジセンター出版局)とを併読すれば、ここ十年のミステリ・シーンにおける<新本格>の浸透ぶりが俯瞰できる。前者は、野崎版『極楽の鬼』あるいは『地獄の読書録』といったところで、週刊誌に連載した九年分の書評をまとめたもの。また後者は、十五年にわたって書かれた、文庫の解説や諸雑誌紙への寄稿・時評の集成だ。約七〇枚にも及ぶ『眩暈』文庫解説は、『哲学者の密室』論も含みこんで、圧巻の一言につきる。
 右の仕事を踏まえて、野崎によって書き下ろされたのが、『複雑系ミステリを読む』(毎日新聞社)である。これは<新本格>的作品を通して、時代状況を読み取っていこうとした長編エッセイだ。<複雑系ミステリ>というネーミングが印象に残るものの、その実態はやや曖昧。といのも、ここで取りあげられている三十作品それぞれに対する言及が、簡略すぎる嫌いがあるからだ。しだがって、どうしてもガイドブックのような印象を受けてしまい、村上春樹『アンダーグラウンド』、村上龍『ラヴ&ポップ』、そして『新世紀エヴァンゲリオン』の三つを通して現代社会像を描き出そうとした最終章との接点が、今ひとつ見えにくくなってしまっているように思われる。

横井司「ミステリ周辺書紹介」より 98本格ミステリ・ベスト10 東京創元社98.3