野崎六助著作リストつづき

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19 大藪春彦伝説  遙かなる野獣の挽歌(バラード) ビレッジセンター    1996. 7          

 

 わたしの日本探偵小説論の戦後編の柱はこの一冊で代用できる。

 戦前編は、大菩薩峠論と夢野久作論である。全般的な通史は構想にないが、前人未到の領域というわけでもなく、とくに挑戦する欲求はない。

  目次 大藪春彦伝説
     1 大藪春彦ワールドのダーティ・ヒーローたち
     2 獣たちに故郷はいらない
     3 全作品解題
     4 戦後史と大藪文学
     大藪春彦著作目録
     参考文献     あとがき

 装丁 岩瀬聡


20 これがミステリガイドだ!  毎日新聞社 1997.2                       

 サンデー毎日に隔週掲載のミステリ・ガイド書評、九年分の集大成。索引付き。

 あとの四年分を増補して決定新版を出す予定。


21 世紀末ミステリ完全攻略  ビレッジセンター   1997.5

 同じくガイドブックだが、重なった時期に書かれた雑誌コラムや文庫解説、時評の集成。

 

 主な目次  1 ハードボイルドの過去と現在  赤い、暴力の現代小説
                        ガラスの社会抗議     ハードボイルド教本の聖家族

         2 日本ミステリの現在と未来
           闇のなかの翼 新本格アレルギーへのショック療法   眩暈めまいメマイ 島田荘司『眩暈』解説
         3 日付のあるメモリアル  マルセル・エイメ氏のために
         4 海外ミステリ片っぱしから現在過去未来 
              イギリス人の痛切な自画像 ル・カレ『ロシア・ハウス』書評
              午前三時の天使たち クレイグ・ライス『時計は三時に止まる』解説
              矛盾にみちたイタリア像 マイクル・ディブディン『陰謀と死』解説
              ロス・トーマスは楽しい ロス・トーマス『神が忘れた町』解説
         5 片っぱしから国内ミステリ         芸術家小説の失敗 大西巨人『三位一体の神話』書評
                       闘いすんで日が暮れて 勝目梓『ガラスの部屋』解説
                       六番目の男は誰か 菊池秀行『影歩む港』解説
                       男たちへの贈り物 稲見一良氏を悼む

         6 いよいよ未来に秒読み  ドリームマスターを追え
                            最終探偵小説への奇妙な情熱
         初出一覧

    


22 超・真・贋  講談社 1997. 5                                   

 小説七作目。贋作をめぐるコンゲーム・ミステリ。

 故桜井一(風間一輝)氏にお願いした装幀が素晴らしい。

 おこがましい言い方だが、自分としては初めて小説作法と本気で格闘した所産である。無から有をつくりだすストーリーの面白さの内部に潜りこむことができた。


 世界の贋作として話題をまいた「正安の壷」が衆人環視のなか、こつ然と消えた。それを所有していたのが、往年のハリウッドスター椿東洋。新聞には「怪盗、名優を盗む?!」の見出しが躍る。世紀の壷の行方をめぐって、怪盗ルパンならぬ怪盗板東苫三郎と、その幼なじみの警官、大物政治家、映画スターらがくり広げるゲーム感覚のミステリー。名調子の語りと劇画のノリで一気に読ませる。

東京新聞1997.8.3


23 複雑系ミステリを読む  毎日新聞社  1997. 8     装丁本文組版 鈴木一誌                    

 『これがミステリ・ガイトだ!』末尾のあとがき、九五年前後の段階でのミステリ・シーンの現状分析が、書き下ろし一冊に拡大された。意図はともかく、結果は必ずしも満足のいくものではなかった。もう少しうまく書けたはずなのにと思う。

 原因はいろいろあるが、一つは、実作の11や13にも露呈しているところの、わたしの本格ミステリへの求心力不足だろう。

 しかし振り返るに、この時点での早めの中間総括はやっておいて良かったと思う。三年後に考えてみても、日本ミステリーの現状は、原理的にあまり動いていないからだ。

  目次 00 一国複雑系 京極系と『エヴァ』系の激突
      01 フラクタルな冒険者たち
      02 これもまた一つの自分探しゲーム
      03 反世界からの招き
      ∞ 失われた世界像を求めて



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24 異常心理小説大全  早川書房   1997. 9        装丁 吉永和哉                    

 ミステリマガジンに四年間連載した「サイコドラマ・サイコパシー」の単行本化。ただ連載原稿を再構成しただけではなく、かなりの削除、加筆をほどこしてある。書き下ろしに近い部分もある。

 内容とはうらはらにシンプルで清楚な装幀である。推薦の辞を頼む人を間違った。

  目次  00 サイコミステリで夜はふけて
       1 多重人格ミステリ・ツアー
       2 シリアル・キラーたちの肖像
       3 異常心理小説ア・ラ・カルト
      +1 サイコミステリで夜はあけて
      索引

 


25 謎解き「大菩薩峠」  解放出版社 1997. 10       装丁 戸田ツトム                    

 これも装幀が非常に気に入っている本だ。

 『大菩薩峠』にたいする従来の評価へのあきたらなさを払拭するためには、自分で論考の筆をとってみる他なかった。日本人論、天皇制論、すべてがここにある。わたしが『煉獄回廊』という小説を書くことができたのは、この評論を通過したおかげだ。女性像の呈示、幻想の侵犯力の無慈悲さ、わたしが追い求めた答えは、あらかたこの長大な小説のなかにあった。

  目次 一章 飛翔する停滞--『大菩薩峠』の無時間性
      二章 女たちのやさしさ
      三章 マンダラの鏡
      四章 夢のかよい路
      五章 聖と賤の深淵
      六章 迷い込んだ目のなかで解読せよ
      補遺 異本(ヴァリアント)の数々について

 


26 復員文学論 (1の復刊) インパクト出版会 1997.11

 サブタイトルだった「復員文学論」をメインタイトルに変えた。この一事だけでも、長年の喉のつかえがおりた想いだった。

 復刊の機会に当時の書評の主なところを転載させていただいた。けっこう反響の数は、局地的といっても、多かったのだ。思い出すのも恥ずかしい全共闘ブーム。その末期に書かれた本の歴史性からは否が応でも離れることはできないだろう。

 「十四年後のあとがき」というかたちで書いた加筆部分は、わたし自身にとっても含蓄深い。己れの批評行為が終わっていく場所をわたしは一貫して求めているのかもしれない。それはいつの頃からか、わたしの渇望にも近かった。性急に探しても見つからない。

  追加した頁

   同時代書評集成  「本当の嘘」という虚像  ダカーポ
            回収と自立  栗原幸夫
            復員革命論  平井玄
            復員の両義性  杉村昌昭
            『山猫の夏』と『復員文学論』  平岡正明
            喪失した歴史感覚の回復  井家上隆幸
            時期を逸した問い  神津陽
            今年の収穫一九八四年  上野千鶴子
            自己否定なき世代からの試み  噂の真相
            あの「闘い」の絶対化  天野恵一
   復員文学論、十四年後の未完に向けて


27 Ryu's Virus リュウズ・ウイルス 村上龍読本  毎日新聞社  1998.1  装丁 菊池信義

 まったく予想も予定もしていなかった一つの作家論。意外なところに発見されたテーマだ。

 論じにくい厄介な対象であることは確かだが、他に類書があれば、たぶん手をつけなかっただろう。自分の仕事の上での接点、どこからつながってどこに伸びるか、はまだよくわからないままだ。

  目次  序 ウイルス侵入
       1 廃墟の果てまで エッジ・シティ・フルマラソン
       2 快楽の窮極へ インディヴィデュアル・インプロヴィゼーション
       3 希望と再生の声 ゲシュタルト・ヴァイブレーション
       村上龍著作目録